映像を使ったコーチング③

みなさん、こんにちは。

いつもありがとうございます。

もう4月1日!新しい年度が始まりました!

ほんとに毎年足早に時は過ぎていきますよね。

生き急いでも良く無いですけど、一度しかない人生一生懸命全うしたいですよね。(という仏陀的なコメント)

さて、今回は映像シリーズ第3弾です。

自チームの映像編集(個人/チーム)について書いてみようと思います。

2 自チームの映像編集(個人/チーム)

これはプロじゃなくてもどのレベルでも出来ることかな、と思いますし、最近はミニバスのコーチでも卒業に合わせて映像を編集したり、メッセージを入れたDVDを送ったりなどされている方もいらっしゃるようです。そうしたハイライトビデオやモチベーションビデオもありますし、個人だったらシュートフォームやスタンスの矯正などはスマートフォンやiPadを手軽に使って自分の動きを確認出来る世の中になりました。チームでもオフェンスでもディフェンスでも修正点はもちろん良かったプレイなどをフィードバックすることで選手のパフォーマンスを上げることが出来ます。

まあやり方や目的はいろいろありますが、今回は特にチームへのフィードバックとモチベーションビデオなどについてご紹介したいと思います。

自分が映像を主で手がけるスタッフの場合、HCの意向もあり、だいたいがポジティブな画像を見せることが多かったです。

つまり「チームとしてうまく行った映像」を取り出してチームにフィードバックする。

極端な例だと、ある試合で80数回のポゼッションがあるうち、2回くらいしかうまくいってなくてもその部分を絶対に見せる。

悪かった部分も見せるのですが、割合としては良い所8に対し悪い所2くらい。(だから悪い試合の後は大変でした(笑))

試合の内容が悪くてもそうした形でフィードバックすることが多かったです。

HCによって変わると思いますが、心理学的にもどういうフィードバックをするかにはいろいろな説があって、一つは映像のフィードバックの目的が「パフォーマンスを上げる」ということであるとすれば、「(悪いという)現状を知ること」と「これから行いたいプレイをしっかりと共通認識すること」のどちらに重きを置くかで変わってくるようです。

試合に負けた場合、競争心や責任感の強い選手が多ければ多いほど、「現状を知る」よりも「行いたいプレイを知る」ことの方が重要となってくる、と捉えるコーチが多いのではないでしょうか。負けた以上、「現状うまくいっていない」ことはわかっている訳でそれよりもチームが何をしたいのか、コーチが何を求めているのか、どうプレイすれば同じ対戦相手に通用するのかをフィードバックすることが重要になってくる。。。

何度もご紹介している「ゴールドスタンダード」でも同じような手法が取られていたことが垣間みれます。

ただ、「あえて」悪い所を見せることも時には必要で、これはコーチングの目的である「パフォーマンスを上げる」というためにどちらが必要かを見極める必要があります。選手全員がうぬぼれてしまっていて、自分達の悪い所を認識出来ずにいる場合などはこの手法が必要ですし、現に「ゴールドスタンダード」の中でもコーチKがこうした「荒療治」に出ているシーンもあります。

ただやはり「荒療治」になるので使うのには注意が必要だ、というのが一般的な考え方のようです。

例えば試合後の最初のミーティングでは悪いプレイを見せて、次の試合前にポジティブな映像を見せて試合に臨ませる、という手法も試したことがありますが、選手のレスポンス(コート上でのパフォーマンス、練習意欲)は良かったように感じています。

なぜポジティブな映像を見せるかのもう一つの理由は「ディフェンスメカニズム(防衛本能)」にあります。

試合の映像を見せる場合、気をつけなければならないのはミスをする個人が同じ場合があったり、全員の前でその映像を見せることでたとえ言及しなくてもその選手を全員の前でさらし者にしている(もしくはそう感じてしまう選手がいる可能性がある)、という事実です。極端な例で言えば、例えば残り5秒2点リードの場面でフリースローをもらったとしましょう。ある選手が2本両方を落とす。相手ボールになり相手がブザービーターで3ポイントを決めて敗戦。

こんなケースの場合、ディフェンスで3Pを打たれた選手はもちろん、フリースローを落とした選手は既に相当落胆していますし、充分に反省しているはずです。それをもう一度全員の前でフリースローを外すシーンから見せてしまったら、下手をしたらもう立ち直れなくなるほどの傷を負わせるか、もしくはコーチとの信頼関係が崩れてしまう可能性もあります。もちろんプレイヤーの性格次第ですし、ケースバイケースなのですが、映像や数字は時に「凶器」になる、というのは覚えておかなければならない。それだけ客観的にも説得力があるため、選手からしたら逃げ場が無くなってしまう。見せ方や表現によっては相当な「人格否定」にも繋がり得ると自分は心理学の授業で学んだ覚えがあります。

昔、オーランドマジックでプレイしていたニック・アンダーソンという選手がプレイオフの終盤で確かフリースローを4本連続くらい外し勝ちを逃してしまったことがあります。その後、彼は何シーズンにも渡ってフリースローが入らなくなってしまいました。アメリカはそうした画面をスポーツニュースなどで繰り返し流しますし、映像とはちょっとずれますが新聞や雑誌にもかなり書かれます。NBAのプロのシューターでもぼろぼろになってしまうことってある。。。

得意のパターンで話がそれまくりですが、本題に戻りましょう。言いたかったことはミスの映像を見せることで例えみんなの前で叱咤したり、指摘をしなかったとしても選手によっては「糾弾された」とか「チームメイトから信頼されなくなる」と感じる人もいるかも知れませんし、それくらい影響が大きいものなんです。そして人間は窮地に追い込まれると必ず自分を守る本能「ディフェンスメカニズム(防衛本能)」が作動するものだと心理学では言われています。

「おまえは自分勝手でチームのためにプレイしていない」

その一言(とかそういう印象でとられかねない映像のせい)でプレイヤーの「ディフェンスメカニズム」が作動し、話を聞かなかったり(「逃避」、「無視」)、言い訳(「自己弁護」)を始めます。

そうした時は「ディフェンスメカニズム」が作動してしまっている。

映像も同じです。プレイヤーが手を抜いている場面、ミスをした場面を見せることで、「お前はハードワークしない怠惰な選手の上に、ミスが多いろくでもない選手だ」というメッセージを発信する、もしくはプレイヤーがそう言われていると受け取ってしまう。。。そうしたら確実にディフェンスメカニズムが作動する。

難しいのはこのディフェンスメカニズム(に伴う「逃避」、「無視」、「自己弁護」など)は、「本能」なので、なかなか治せない所にあります。

例えばお湯を触って熱いので思わず手をひいてしまうあの動作。これは条件反射という本能ですよね。

これを「辞めろ」というのは簡単ではない。

熱湯に指を突っ込んでも大丈夫なくらい何度やけどしても指を入れて慣れさせるくらいしか自分には思いつきませんが、同じ考え方でいくと相当のネガティブな映像や言葉をぶつけるなどの厳しい指導が必要になってくる。それに麻痺するくらいに追い込むしかなくなってくる。そしてこれが昔日本でも行われていたコーチングのスタイルであり、今現在でも軍隊などでは(日本の自衛隊ではありませんというか知りません。海外です。)あえてこのスタイルで行った方が良い、とする心理学の考え方もあるような話を聞いたことがあります。

一方で「ディフェンスメカニズム」を作動させなければもっとプレイヤーは比較的簡単にコーチングを聴く。

まあ心理学でも言われるし、松下幸之助さんも「褒めるが8割、叱るが2割くらいの塩梅」と言われる様に、この8:2って結構世界どこにいっても同じなのかなと自分は勝手に思っています。

今回は映像に関してなので、「ディフェンスメカニズム」についてはまたどこかで。。。

第3に(今日長いな。。。)、「セルフイメージを大きくする」ということがあります。

自分達を「弱い」と思って試合や戦いに臨むのか、「自分達はきちんとやれば勝てる」と思って試合に臨むのか。

「弱い、弱い、弱い」「怠け者、怠け者、怠け者」と言われ続けて跳ね返れる選手(プライドが高く、自尊心が強い)とそれを信じ込んでしまうタイプの選手。

当然いろいろいますよね。でも内面が強い選手がいたとしても「チーム」という集団となった場合、大多数に流されることが多くなってしまったり、自分のことは信じられても自分がいる集団のことを信じられなくなってしまえば「チーム」としての強さは発揮できない。。。「チーム」としてのセルフイメージは小さくなってしまう。。。自分や自分の周りのチームメイトを信じられないチームってやっぱり弱い。

だから「本当はここまで出来る」というイメージをしっかり持たせた上で、「今日はここまでしか出来なかった時間帯が多かった」と見せるか(順番を逆にして「今日はこんな悪いプレイをしてたけど、良い時間帯は悪いプレイをしていた同じメンバーでこれだけのことが出来てた」と見せても良い)、もしくは自分達のプレイのイメージが最初から強固でプライドを持っているチームであれば「おまえらの今日のプレイをみてみろ!」と見せて「こんなのはおれたちの実力じゃない」と跳ね返ってくる場合もあるでしょう。例えば女子のJXとか、男子のアイシン、トヨタ辺りの優勝経験があるメンバーが多い場合は成績的にもこのように悪い所ばかり見せても跳ね返れる気が個人的にはします。それでもシーズンを通して毎回悪いシーンだけ取り出して見せられたらどうなるかは自分にはわかりませんが。。。

心理学的な話ばかりになってしまいましたが、どれも「ポジティブな場面しか見せない」とか「悪い所を見せたら悪」みたいな「0/100」、「白/黒」理論ではなく、あくまで「選手(チーム)のパフォーマンスを上げる」ためにどの手段をいつ使うか、ということなのですが。。。

この辺の塩梅がコーチングの妙味であり、「暗黙知」の部分なんでしょうね。

この辺の話は別に映像に限ったことではないのですが。。。

たまに学生コーチなどから「どのようにフィードバックしますか?」とか聞かれますが、自分は「どのプレイ」とかそういったものは相手チームや自チームの状況によっても変わるので、こういった「選手の受け方」とか、そういう原則の方が大切な気がしています。結局どんなに正しくても聞いてもらえなければ意味がないし、選手のパフォーマンスが上がらなければ意味が無いので。若い真面目なコーチほど、悪い所のあら探しになってしまいがちのようですがそうすると選手の受け取り方は悪いようです(パフォーマンスが伸びない)。先日サッカーのコーチとも話しましたが、選手経験の無いコーチほど、どちらかというとそういう感じに陥りやすい、と。この辺は機会があればまた今度書きます。

皆さんの参考になれば幸いです。